晩 酌
仏教では在家の信者が守るべき5つの戒があります。
不殺生戒 (ふせっしょうかい) |
生き物を殺してはいけない。 |
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不偸盗戒 (ふちゅうとうかい) |
他人のものを盗んではいけない。 |
不邪淫戒 (ふじゃいんかい) |
不倫してはいけない。 |
不妄語戒 (ふもうごかい) |
嘘をついてはいけない。 |
不飲酒戒 (ふおんじゅかい) |
酒を飲んではいけない。 |
煩悩のある身、全ては守れません。俗に「酒と女は2(号、合)まで」と言われていますが、晩酌は2合未満を心がけています。
甘口と辛口
日本酒の甘い、辛いの目安となる数値に日本酒度と酸度があります。「日本酒度」は、水(±0)に対する酒の比重を「日本酒度計」で計ったものです。 この比重は、糖分を中心とするエキス分が多い酒ほど重くなりマイナスに、エキス分が少ない酒ほど軽くなりプラスに傾きます。 「酸度」は酒中の有機酸(乳酸、コハク酸、リンゴ酸など)の量を表しています。有機酸は、酒の味に酸味、旨味をもたらします。 下の図は日本酒度と酸度で見る感応表です。
思い出の銘柄
菊姫原酒
20年以上も前に島田商店の利き酒コーナーで「これは旨い」と思った日本酒に出会いました。貼られていたラベルは赤い「原酒」。 酒のアドバイスをしてくれる馴染みの店員さんによると、この酒は決して高級で洗練された酒ではないが、酒の味の分かる酒飲みが好む酒だそうです。 以来酒飲みを自負している身に、菊姫はどんなランクでも決して裏切ることのない、最も好きな銘柄になっています。
剣菱瑞祥
「システムエンジニアーにとって最も大切な資質は、開発対象に精通していて、その色を消して分類できることだ。」とある方から教わりました。 30代半ばでシステムの世界に飛び込んだ身にとって、物を知っている強みを生かせる心強いアドバイスとなりました。 広島在住で酒好きのその方から、毎年暮れにこの酒が届きます。古酒ならではのコハク色と、とろりとしたまろやかな味わいの逸品です。
北光正宗
女房が学生時代からスキーに来ていた戸狩に民宿「志ばら」がありました。2人の息子達が幼稚園から大学を卒業する頃まで、毎年ここにスキーに来るのが 家族の行事になっていました。民宿へ行く途中にある角口酒造で純米酒を一本仕入れ、部屋のガラス窓と障子の間で冷やして味わう酒、こたつを囲んでの子供の宿題、 トランプ、食事等タイムスリップしたような団らんがありました。
まぼろし赤箱
ノルドエルベ橋はドイツエルベ川に架かるシンプルな斜張橋で、2羽の鳥が空へ飛び立つような姿をしています。 橋梁技術者を志す契機は教科書で見たこの橋の写真です。偶然にも同じ橋に魅せられ、現地まで行かれた方と一緒に仕事した時にこの酒を頂きました。 平成元年に空港の免税店で同じ酒を見つけ、以前運悪く味わえずに羨んでいた上司のためにヨーロッパを一周して持ち帰りました。
福寿純米吟醸
「福寿純米吟醸」は日本人がノーベル賞を受賞した際、晩餐会で振舞われる酒です。報道されてからは入手が困難になりましたが、 たまたま頒布会で送られてきた一本がこれでした。春日台C.Cには酒好き、ゴルフ好きの仲間がいて、月例は同じメンバーでラウンドしています。 4人が自慢の酒を持ち寄り、昼食は利き酒の会になります。私が持参した自慢の一本がこの酒です。
純米大吟醸浪庵
3月11日の津波で倒壊した閖上・佐々木酒造の蔵の跡から、奇跡的に無事残っていたタンクのお酒がろ過・瓶詰めされ、 名取市の仮設店舗で販売されていました。平成24年9月に社員旅行で訪れた時にこの貴重な「純米大吟醸浪庵」を買い求めました。 その後蔵は名取市の仮設工業団地で復旧され、閖上地区復興の先頭に立っているとのことです。
櫻正宗焼稀
還暦を過ぎてから女房と美術館へ行くことが多くなりました。兵庫県立美術館へ行った時に魚崎で途中下車し、櫻正宗記念館「櫻宴」でこの酒を味わいました。 阪神大震災で倒壊した酒蔵は門だけが残り、記念館の入口になっているとのことです。震災の傷跡がまだ残る中、当時小学生の息子2人と親父の4人で 三宮に向けて歩き始めたのはこの近くからでした。
酒蔵めぐり
毎月島田商店から個性豊かな旬の純米酒や純米吟醸酒が、日本酒度や蔵本の歴史、銘柄の由来などがわかるお酒のデータと共に送られてきます。
また、「一木会」で振舞う酒は大国町近くの「地方銘酒専門店」山中酒の店から仕入れています。
これまでに手に入れた酒の銘柄とその酒蔵をご紹介します。
(サブメニューに掲載)
蔵開き(平成30年11月17日)
長龍酒造は天理市の本家から独立して八尾市で開業した日本酒メーカーで、現在は奈良県の広陵蔵が醸造場となっています。
吉野杉で作られた高級樽に肌添えさせた「吉野杉の樽酒」は、業界で初めて発売された瓶詰め樽酒としてロングラン商品になっています。
また、このブログの酒蔵のコーナーにも紹介しているように、ビンテージ純米酒「ふた穂」、奈良の地産地消にこだわった「稲の国の稲の酒」などを発売し、
伝統を守りつつ新たな挑戦を続ける酒蔵です。
先日、広陵蔵で蔵開きが開催され、昨年に引き続き酒好きのおじさん、おばさん達と参加してきました。
広陵蔵は王寺で近鉄生駒線から近鉄田原本線に乗り換え、電車で30分ほどの距離にあります。
一緒に参加するM君が同じ電車に乗っていなかと改札を出て振り向くと、派手な黄緑色のジャンパーを着たM君の姿がありました。
最寄り駅の箸尾駅に着くと乗客のほとんどが下車し、無人改札を通り広陵蔵を目指して歩いて行きます。
箸尾駅の駅名は、室町時代の大和国土豪で、筒井氏、越智氏、十市氏と大和四家の一つと言われた箸尾氏に由来します。
広陵蔵に着くと9時30分からの受付が始まったばかりで、門の前で待っていた人の列が動き始めました。
最後尾に並び受付を済ませ、早速販売コーナーで蔵開き限定酒の「純米新酒生原酒」と「大吟醸山田錦38%無濾過原酒」、
それに酒粕と奈良漬を買い求めました。
蔵開きは30分後ですが、まずは落ち着いてお酒を飲むための場所の確保です。
会場奥のスペースにはテーブルを設けたテントが張られています。
テーブルの上にはすでに場所取りの荷物が置かれていますが、半分だけ空いているテーブルを見つけて確保しました。
M君と交互に屋台コーナーで売られているお酒、おでんや焼きそばを買いに行ってテーブルに運びました。
蔵開きは、新酒が出来たことを知らせる杉玉掲揚から始まり、鏡開きの後、樽酒が振舞われました。
後から参加するメンバーのため、紙コップに入れられた振舞い酒を何度も往復して20杯ほど運びました。
大学の同級生のMo君と一緒に参加予定の吹田市山岳同好会のグループとゴルフ仲間のTさんは1時間ほど遅れて到着です。
山好きの女性はお酒が強い人が多いのでしょうか、顔色を変えずに飲まれています。
山岳同好会の会長さんは、私がいずれ行きたいと思っている熊野古道の大峰奥駈路のルートにある2,000m級の山をほとんど登られたそうです。
現在も女人禁制を通している山上ヶ岳にも、門番が不在の冬に龍馬の奥さんのお龍さんのように男装して登られたそうです。
会場内には様々なイベントのコーナーが用意されています。
昨年の利き酒のコーナーは大吟醸酒、吟醸酒、純米酒の違いを当てる問題でしたが、
今年は一年違いで造られた本醸造酒のどちらが新しいかを当てる問題です。
酒米の磨き方がそんなに違うお酒ではないため全く分かりませんでした。
無料試飲コーナーでは5種類ほどの一升瓶が逆さに置かれていて、小さなコップをその口に差し入れると5ccほどのお酒が注がれます。
それを飲み比べるわけですが、酔いが回ってくると味の違いがよくわからなくなってきます。
3時間ほどで4合近くは飲んだとお思いますが、千鳥足で帰る途中、馬見丘陵公園に寄りました。
フラワーフェスタでメインのダリアの絨毯は、葉だけになっていましたが、まだ晩秋を飾る花々が咲いていました。
来年は、お酒と焼き鳥やおでんを会場から持って来て、ここで花をめでながら蔵開きをしようと約束して、家まで歩いて帰るTさんと別れました。
ケの日(平成27年5月11日)
島田商店は、大阪の阿波座にある吟醸酒や古酒・熟成酒を揃える専門店です。
最初にこの店を訪れたのは今から四半世紀ほど前の事です。当時システム開発を手伝って頂いていた広島のソフトハウスの方が日本酒好きで、
打ち合わせが終わると事務所から歩いてもそう遠くないこの店によく来ました。
飲み屋ではないのですが、地下に吉野杉で造られた酒樽の底板を利用した大きな円形のテーブルが2つあり、そこで試飲できます。
お願いすれば若い酒から熟成酒まで日本酒を5本ほどテーブルに並べてくれます。
同じ数のグラスを置いて酒を注ぎ、若い酒の方から順番に試飲します。肴は金山寺味噌だけです。
日本酒の甘い、辛いの目安となる数値に日本酒度(水に対する酒の比重)と酸度(有機酸の量)があります。
酒度は(+)が辛口、(-)が甘口で、酸度は数値が大きくなるに従い、淡麗から濃淳に変わります。
この組み合わせによって淡麗甘口・辛口、濃淳甘口・辛口や中味などの日本酒の味が決まります。
他にも原料米をどれだけ削るかによって吟醸、大吟醸などに分かれます。
ここで色々な酒を試飲してみると、自分の好みの味が分かるようになります。
私の場合、味は少し重たい感じのする濃淳辛口、華やかな大吟醸よりも新鮮な魚に合う吟醸酒が好みです。
全国の250ほどの蔵元の酒を扱われていますので、ホワイトハウスの晩餐会で出された「獺祭」や日本人のノーベル賞受賞時に出される「福寿」などは、
まだ話題になる前にここで飲みました。試飲した中で最も印象に残っているのは月桂冠の大吟醸酒です。
瓶には工場出荷時にナンバーリングされたNO.000001のプレートが懸かっていました。
他にも「地楽」、「風楽」、「天楽」とグレードが上がる「小鼓」の、最高級酒「心楽」もここで味わいました。
印象深い銘柄とこれまでに飲んだ酒は、このブログの「酒蔵」に掲載してあります。
この店の頒布会で、何年か前から晩酌用に純米吟醸クラスの酒を月に3本送ってもらっています。
毎晩の消費量が多くて次の酒が届くまでになくなってしまい、近くの酒屋で補充するか、焼酎やワインで埋め合わせていました。
その日本酒がこの頃余るようになってきました。
2か月ほど前からダイエットを始めましたが、少々の運動では効果は上がりません。
食事制限をして昼食を抜くようにしていますが、野菜と魚が中心の夕食まで減らすわけには行きません。
そこで、断腸の思いで晩酌を控えることにし、週2回程度の休肝日を設けることにしました。
結婚以来晩酌は欠かしたことがなく、アル中予備軍を自認している身で無理かと思いましたが、やったらできるものです。
なみなみと酒を注いでいた器にお茶を入れて、舐めるように飲んでいます。
ただ禁断症状の現れでしょうか、外で飲む機会がこれまで以上に楽しみで、酒量もいつもより増えてしまいます。
先日もある会合で飲み過ぎ、乗り越して奈良まで行ってしまい、駅まで迎えに来ていた女房にしかられました。
女房曰く「休肝日の反動で、外でお酒を飲み過ぎるよりも、適量を毎日飲んだ方がいいのじゃない」。
現代人は、昔の人からみれば毎日が「ハレ」のような生活をしていますが、それでもさらなる「ハレ」を求めているそうです。
しかし、毎日が「ハレ」のような生活だからこそ「ケ」求める方が健全だと思います。
晩酌をする「ハレの日」、休肝日の「ケの日」、時々羽目を外す「マッパレの日」、この絶妙の組み合わせが面白いようです。
まぼろし(平成27年2月7日)
ノルドエルベ橋はドイツエルベ川に架かるシンプルな斜張橋で、2羽の鳥が空へ飛び立つような姿をしています。
橋梁技術者を志す契機は教科書で見たこの橋の写真です。
偶然にも同じ橋に魅せられ、現地まで見学に行かれた広島のMさんと一緒に仕事した時に『まぼろし』の赤箱を頂きました。
『まぼろし』は、NHKのドラマ『マッサン』の故郷、竹原市の中尾醸造が作る皇室新年御用酒です。
リンゴ酵母を使った香り高いお酒で、最高峰の大吟醸酒は黒箱です。
いい酒は自分で飲むものと決めていましたが、もう一本を頂いた当時常務のFさんは、「いい酒は人に譲るものだ」と、
お世話になっている京都大学の先生にプレゼントされました。
「お前は物の贈り方を知らん」と冗談まじりに叱られましたが、味わえなかった酒のことは気になっておられたようです。
平成元年に『欧州建設技術交流会』で英国、ドイツ、スイスの大学を訪問する時、偶然伊丹空港の免税店で同じ酒を見つけ、
ウィスキーと共に赤箱を一本買い求めました。
他の酒は旅の途中で消費しましたが、この赤箱だけはFさんに飲んで頂くため、手を付けずに日本に持ち帰りました。
Fさんには当時私立大学で土木を専攻され、私の母校の大学院へ入学を予定されている長女A子さんがおられました。
その後、同じ橋の世界で顔を合わせることになるのですが、最初のきっかけは恩師のN先生からの電話でした。
Fさんの出張中に電話があり、「大学院入学試験の合格発表は必ず見に来るように」との伝言をことづかりました。
まだ公にできない合否をそんな形で伝えるのがN先生やさしさです。
A子さんはその後、高速道路会社に就職され、結婚、出産後も第一線で活躍されていますが、平成11年の暮れに橋の模型作りの相談を受けたことがあります。
マイドーム大阪で開催される『建設技術展2009近畿』の橋の模型コンテストに、会社のチームを率いて参加されるとのことです。テーマはアーチ橋。
アーチと聞いて思い出したのは塩野七生さんの『わが友マキアヴェッリ』で読んだフィレンツェの『花の聖母寺』の屋根の形です。
桁とアーチの組み方は、釘を使わずに縄だけで組み上げる大津祭の曳山の構造をヒントに、ひな形を作って参考にしてもらいました。
そしてコンテストでは、橋梁コンサルタントやメーカーのチームを抑え、見事に優勝されました。
先日、A子さんから学位論文公聴会の案内を頂き母校へ行って来ました。
鋼橋母材接合部に関する研究は、高力ボルトの滑り試験の経験がある私にも馴染みのあるテーマで、並み居る先生方を前に堂々とした発表でした。
「技術士は実力で取るもので、学位は授かるものだ」とFさんはよく言っておられましたが、
家庭を持った女性がその二つを手に入れられたのは大したもので、この分野では数人しかおられないと思います。
様々な語録を残されたFさんは、昨年末ご病気で急逝されました。
友達の会社に投資していたお金が戻ってきたので、来春からは大いにゴルフを楽しむと仰っていたのが電話での最後の会話でした。
満中陰が過ぎ、『一木会』の仲間で自宅にお参りさせて頂くことになりました。
告別式に参列できなかった広島のMさんから預かったお供えと共に『まぼろし』の黒箱を持って行きます。
お父さんのFさんにはヨーロッパを一周した赤箱をお贈りしましたが、
この黒箱は博士になられるA子さんにお贈りしたいと思っています。
26年の時を挟んで父と娘に『まぼろし』を贈ることに、時を超えた不思議な縁を感じます。
濁酒(平成25年7月15日)
広島の知人から「贈答用には不向き」と説明書きがある「どぶろく」を送って頂きました。
他にも「一升瓶は絶対に傾けないでください」、「開栓時は必ずアイスピック等でキャップの上から刺して空気を徐々に抜いてください」、
「急に開栓すると、キャップが飛んで3分の2くらい吹き出してしまいます」と何やら恐ろしげな注意書きが書かれています。
そこで、開栓にドリルを使うことにしました。金属シールの上から孔をあけていくと勢いよく泡が吹き上がってきて、
ドリルの隙間からシューシューとお酒が吹きこぼれてきます。そのままドリルを抜かずに5分程するとやっと液面の上昇が止まりました。
「水もと仕込み」という、非常に古典的な仕込み方法で醸されたお酒で、もろみがそのまま瓶詰めされており、米粒もたっぷり入っています。
「お酒を飲んでいる」というより、「お酒を食べている」といった感じです。
酸味もあり、飲み慣れた清酒と比べると違和感があります。「清濁併せ呑む」器量はありませんので、残りは濾して飲もうかとも思っています。