熊野古道大辺路ルート 

 第1回熊野古道大辺路ルート【富田坂】(平成26年1月27日)

 熊野古道中辺路、高野町石道を歩き切り、次のルートは熊野古道小辺路を予定していましたが、高野山から熊野本宮大社に至るこの道は、 山深くこの時期は雪の積もることもあります。そこで、もうすぐ梅の便りが届く海沿いの大辺路ルートを先に歩き始めることにしました。 前日、ゴルフ仲間との新年会で夜遅くまで飲んでいたため、南紀田辺までの運転は女房に任せました。 スタート地点の紀伊富田駅には予定通りに到着しましたが、駐車場への通路が通学の自転車で埋め尽くされています。 何台かを移動させてやっと駐車できました。
 富田坂の登山口にある臨済宗草堂寺でトイレを済ませると、安居の渡し場跡までの5時間程、途中にトイレはありません。 寺の横手から始まる富田坂は、最初は急な竹林の中を通ります。暫く進むと人の気配とガサガサと音が聞こえてきます。 そこにいたおじさんの話では小さい猪を罠で捕まえたとのことで、ぼたん鍋にするそうです。 和歌山では今、南紀田辺から周参見に延びる高速道路の工事が盛んで、ここでは富田坂を跨ぐ橋の工事が行われています。 ここから暫くなだらかな林道が続いた後、「七曲がり」と書かれた看板があり、つづら折れの急な上り坂に差し掛かります。 息を切らしながら坂を上りきると杉林から雑木林に変わって視界が開け、白浜方面の景色が広がります。 遠くに白浜アドベンチャーワールドやかつてよく利用したエクシブ白浜の建物が見えます。 安居辻松峠を越えると林道と合流し、そこから先は下り坂です。 適当な休憩場所がなかなか見つからないため、昼食は日のあたる見晴らしの良い林道の途中でとりました。 坂を下りきった所で本線と分岐し、三ヶ川の上流にある「祝の滝」へ向かいます。 透き通った水の流れる川を遡ると、川とは反対側に水がちょろちょろと滴り落ちる大きな崖があり、その前に「祝の滝」の案内板があります。 「これが滝?」と思いながら読むと、祝という娘の名前から名づけられという由来と、滝の高さは10mで水量の多い時は実に見事な滝であると書かれています。 がっかりして引き返そうとすると、水の落ちる音が聞こえてきます。木が茂って見えにくかったのですが、滝は道の反対側にありました。 分岐地点まで戻り三ヶ川に沿って林道を下ると安居の町に出ます。この町の家々の前に奇妙な看板がかかっていて「大黒柱のある家」と書かれています。 中には大黒柱なんてなさそうな傾きかけた家もあります。ネットで調べてみたのですがどういう意味か分かりませんでした。 安居からはバスで紀伊日置駅まで行き、そこからJRで紀伊富田へ戻りました。 日置駅に着いた時に東急ハーベスト南紀田辺に電話をして当日の宿泊を申し込んだところ、「申し訳ありません。」と意外な返事が返ってきました。 その日から3日ほど設備保守のため全館休業とのことです。白浜で別のホテルに泊まるか東急ハーベスト有馬へ行くか迷ったのですが、 風邪気味の女房の意見に従い家に帰ることにしました。 熊野古道大辺路ルートの初回は、随分ハードな日帰りのスケジュールになってしまいましたが、 次は自然林に囲まれた尾根道、石畳道が続くこのコースのメインルートです。梅見を兼ねて温泉でゆっくりできる古道ウォークにしたいと思っています。

 第2回熊野古道大辺路ルート【仏坂】(平成26年3月11日)

 すさみ町を訪れるようになったのは、西牟婁振興局長をしていた大学時代の友人Fの紹介で「海と里の大学」の講座に参加するようになったのが切掛けです。 「海と里の大学」は、すさみの自然や農漁村の生活を都会の人に体験してもらうことで交流人口や定住人口を増やそうとする体験事業で、 町民が講師になり、ケンケンカツオ漁や釣り体験の他、林業、サンマずし作りなどの講座が運営されていました。 二度目の「カジキ釣り体験講座」には、広島からランドクルーザーに乗って来た、磯釣りが趣味の友人Mと二人で参加しました。 戦国の世に生まれれば、名のある武将になったであろうと思わせる風貌と性格の持ち主のMは、酒と魚には一家言を持っていますが、 南紀田辺の割烹料亭での純米吟醸「黒牛」と地元の魚には不満のない様子でした。 翌朝、台風が過ぎ去って間もない空は雲が低く垂れ、海は荒れています。 10人程乗れるクルーザーで港を出発し、2人一組で四組に分かれ4本の竿を担当します。 船は2~3時間停まることなく荒波の上でトローリングを続けますが、後ろの席に座ったまま船酔いで動けません。 この日、カジキは釣れませんでしたが、別の組の竿に1m程のシーラが一匹掛かりました。 日本では人気のない魚ですが、ハワイではマヒマヒと呼ばれる白身の高級魚です。 自治会館ですさみ町のおばさんたちの手料理で美味しく頂きました。
 今回は大辺路ルート終点の周参見駅駐車場に車を停め、紀伊日置駅まで電車で戻ります。 すさみはエビ漁が盛んなようで、駅の構内は所狭しと、エビの写真が掲げられています。 ウツボが飼育されている大きな水槽もありますが、同居しているエビが食べられないのが不思議です。 紀伊日置駅からバスに乗り、前回の終点「安居の渡し場跡」近くの口ヶ谷バス停に向かいます。 そこから橋を渡って仏坂へ向かう予定でしたが、がけ崩れのため通行止めの看板が出ています。 仕方がないので次の安居バス停まで行き舟で渡してもらうことにしました。 杉木立の中、つづら折れの仏坂を上りきると茶屋跡があり舗装された道に出ます。 ネットで調べて印刷した地図では、この道がルートになっており、道標も同じ方向を示しています。 下村バス停まで下り、大間川の岸辺で昼ご飯を食べていた時、置いていた地図を風に飛ばされ川に落としてしまいました。 確認のため、別に持っていたハンドブックの地図を見ると、今いる場所はルートから外れています。 どうやら正規ルートが通行止めの時の迂回路を通ってきたようです。 古道とは程遠い、トンネル工事の土砂を満載したダンプカーの通る道をひたすら歩いて周参見駅に向かいました。

 第3回熊野古道大辺路ルート【長井坂】(平成26年4月30日)

 世界遺産に登録されているこのルートの最終コースが長井坂です。無人の見老津駅に車を停め、周参見駅まで電車で戻ります。 駅構内が町の観光案内所の役割をしているようで、展示されている写真は前回のエビからケンケンカツオ漁に変わっています。
 カツオの漁法としては、巻網、一本釣、ケンケン漁がありますが、カツオの絶命の仕方の違いにより味に大きな差が出るようです。 巻網では、時速約60kmで泳いでいるカツオが突然ストップさせられた上、カツオ同士がギュウギュウ詰めになり死んでしまいます。 一本釣の場合は生きたまま水揚されますが、釣上げた後甲板に叩きつけられてそのままバタバタして死んでしまいます。 一方ケンケン漁では、一本釣と同じように生きたまま水揚されますが、 一本ずつ頭頂部を専用の器具や船の部位で叩かれ、即死状態で血抜きされます。 カツオは全くストレスを感じないまま昇天しますので、非常に良い身質が保たれ、餅のように歯にまとわりつく独特の食感からモチ鰹と呼ばれています。
 周参見駅から20分ほど国道沿いを歩くと、生コン工場の壁に大きく馬転坂入口の案内図が描かれています。 工場内を横切り、その名の通りの急斜面を登り、しばらく山道を歩くと急に道が途絶え、工事中の広大な造成地に出ます。 津波対策の高台を造成中のようで、削られた山肌を何度か迷いながら歩き、再び古道に戻ることができました。 西浜から和深川沿いに谷に入り和深川王子社へ向かう途中、奇妙な形をした家を見つけました。 屋根と壁一面に黒いカラーベストが貼られ、クジラの形をしています。 以前、「人生の楽園」というテレビ番組で見た、田舎暮らしを始めた方が建てられた家のようです。 番組では斬新で快適な家のように紹介されていましたが、敷地が川に近く、家の形も特異なため住みにくそうです。 和深川の里を過ぎるといよいよ「長井坂」へとさしかかります。 登り口は非常に急な勾配の坂ですが、峠道は枯木灘の眺めもよく、平坦な区間が続きます。 ウバメガシ等海岸性常緑樹が覆う山の斜面の南側には広大な太平洋が開け、道沿いにはそのままの自然林が残されています。 熊野古道大辺路ルートの最後のコースは、心地よいハイキング気分で歩き終えました。